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看護におけるタッチングの効果は?具体的な実践方法も紹介

看護の現場では、患者との信頼関係を築くために多種多様なコミュニケーション技法が用いられています。その中でも「タッチング」は、非言語的コミュニケーションの一つとして特に重要な役割を果たします。
タッチングとは、看護師が患者の身体に意図的に触れることで、安心感や共感を伝える技術です。ときに言葉以上に患者の心に寄り添う力を持つタッチングについて、今回はその効果や具体的な実践方法について詳しく解説します。
訪問看護未経験の方もお気軽にどうぞ!
目次
看護におけるタッチングとは

看護におけるタッチングとは、看護師が患者へ行う身体接触を通じて相手に寄り添う行為を指します。
ただ触れるだけでなく、「相手の気持ちを思いやる」「不安を和らげる」「痛みを緩和する」など、さまざまな目的や意味を持って行う非言語的コミュニケーションの一つです。
タッチングには、以下のような分類があります。
【Estabrooks(1989)の分類】
・ Caring Touch(意図的タッチ):思いやりや共感を表すタッチ
・ Task Touch(業務的タッチ):処置やケアの一環としてのタッチ
・ Protective Touch(防御的タッチ):患者と看護師の安全を守るためのタッチ
【土蔵愛子氏による分類】
・ 共感的タッチ:心の交流を目的としたタッチ
・ 道具的タッチ:バイタル測定や清拭などのケア中に生じるタッチ
・ 治療的タッチ:疼痛緩和やリラクゼーションを目的とするタッチ(例:マッサージ、タッピング)
これらの分類は、看護師がタッチングを意図的に使い分ける際の指標として活用できます。現在の看護の現場では、土蔵愛子氏の分類がわかりやすいかもしれません。タッチングを行う際は、明確な目的を持って行いましょう。
看護師にお薦めするタッチング以外のコミュニケーションスキルについては、以下の記事で解説しています。
【関連記事】
看護師にコミュニケーションスキルが必要な理由は?スキルを高めるポイントも解説
看護におけるタッチングの効果
タッチングには、患者の心身の状態を整えるだけでなく、信頼関係の構築につながるさまざまな効果があるとされています。
ここでは研究や臨床の報告をもとに、代表的なタッチングの効果について紹介します。
患者との信頼関係構築
タッチングは、患者との間に親近感や信頼感を生み出すコミュニケーション手段として有効とされています。特に、言語的なやりとりが難しい高齢者や認知症の方との関係構築において、タッチングは非常に効果的です。
例えば、看護師が慢性疼痛を抱える高齢者にタッチングを行ったところ、痛みの緩和に加えて、看護師と患者の間に良好な関係性が構築されたといった研究報告があります。
タッチングを効果的に用いることで、患者の幸福感の向上にも影響します。
痛みの緩和
優しくさする・マッサージをするといったタッチングによって、患者の生理的な痛みが緩和される可能性があるとされています。理由としては、タッチングにより血流が促進され、痛みを感じにくくなる効果が期待できるためです。
入浴後の保湿ケアを行う際、膝など痛みのある部位をタッチングすることで、痛みの軽減につながったという報告もあります。また、背部マッサージにより痛みだけでなく緊張やストレスの減少、リラクゼーション効果が得られたことも研究によって確認されています。
このように、タッチングには心理的な効果だけでなく身体的症状の緩和にも有効な看護技術と考えられるのです。
不安やストレスの軽減
タッチングには、リラクゼーションを促す効果があるとされており、適切な触れ方によって心身がリラックスし、体温の上昇や緊張感の緩和といった反応が期待できます。
例えば、胃内視鏡検査を受ける患者を対象にした研究では、話しかけるだけの介入と比較して、話しかけながらそっとタッチする介入の方が、患者の緊張や不安が軽減されたという結果が報告されています。
そのため、タッチングは患者の安心感や心の落ち着きをもたらす効果を持つことが示されているといえるでしょう。
参考:
①人見太一「皮膚の特性に基づいた主観的心地よさ及びリラクセーション効果をもたらすタッチング方法の検証—医療現場への導入を視野にいれて—」
②川原由佳里,奥田清子「看護におけるタッチ/マッサージの研究:文献レビュー」
タッチングの実践方法

タッチングを看護実践に取り入れる際には、いくつかのポイントを押さえておくことが大切です。ここでは、効果的なタッチングの基本と具体的な方法について紹介します。
タッチングの基本
タッチングの基本として4つのポイントを以下に挙げています。タッチングを実施する前に基本のポイントを意識するようにしましょう。
タッチングのポイント4点
① 目的を明確にする:
痛みの緩和、不安の軽減、安心感の提供など、タッチングの目的を明確にしておきます。また、タッチングを受ける患者には、目的や方法を伝えておくと安心です。
② 患者の状態や意向を確認する:
すべての患者がタッチングを快く受け入れるわけではないので、患者の精神状態や病状、文化的背景も考慮し、必要に応じて事前に許可を得ましょう。
③ 適切な部位と方法を選ぶ:
タッチングを行う部位や方法は、目的や患者の体調に合わせて選びます。デリケートな部位へのタッチングは慎重に対応しましょう。
④ 優しくゆっくり触れる:
タッチングはソフトな動作が基本です。急な動きや強い圧は、患者に不快感を与える可能性があります。
タッチングの方法
タッチングにはさまざまな方法があり、状況や目的に応じて使い分けることが大切です。以降は、基本的なタッチングの方法を具体例を交えて紹介します。
手を当てる
【方法】
痛みやこわばりがある部位や、不安を感じている患者の手や肩に優しく手を添えます。
【例】
・ 苦痛を訴える患者の肩にそっと手を当て、声をかけながら共感の気持ちを伝える。
・ 緊張している患者の手を包み込むように両手で握り、安心感を与える。
手を当てる方法は、不安の強い患者や検査前の緊張状態にある患者に対して特に効果的です。手の温もりを通して、患者に「支えられている」「守られている」という感覚を届けることができます。
さする
【方法】
患者の背中や手を軽くさするようにして触れます。
【例】
・ 不安を訴える患者の背中を優しくさすり、緊張を緩和する。
・ 入浴後や保湿ケアの際に、下肢をさすって血行を促進し、浮腫の軽減を図る。
さする際のポイントは、皮膚を擦るのではなく表面をなでるように滑らせること。特に広い面積(背中や下肢)へのケアに適しています。
揉む
【方法】
凝り固まった筋肉を優しく揉みほぐします。
【例】
・ 長時間同じ姿勢で過ごしている患者の肩や背中を、優しい力加減で揉みほぐす。
揉むときは、痛みを引き起こさないよう患者の表情や反応を見ながら圧の強さを調整しましょう。特に、高齢者や痛みを感じやすい方へのケアでは、さらにソフトな対応が求められます。
圧迫する
【方法】
対象部位をゆるやかに圧迫します。
【例】
・ 浮腫がみられる患者の下肢に対して、末梢から中枢方向へゆっくり圧迫し、浮腫の軽減を促す。
圧迫は一定のリズムを保ちながら行い、強すぎない圧を意識することが大切です。過度な圧迫は逆に血行障害を招く恐れがあるため、常に患者の状態を観察しながら進めましょう。
たたく(タッピング)
【方法】
手のひらや指を使って、対象部位を一定のリズムで軽くたたきます。
【例】
・ 痰が出しずらい患者に対し、軽く丸めた背中をタッピングして痰の排出を促す。
・ 肩こりを訴える患者の肩を軽くたたき、筋緊張をほぐす。
タッピングは、リズミカルで優しい刺激を与えるようにします。強くたたく必要はなく、心地よい振動を与えるイメージで行いましょう。
看護師がタッチングを行う際の注意点
タッチングは看護実践において非常に有効な手段ですが、実施にあたってはいくつかの注意が必要です。適切な方法で患者の心身に寄り添うためにも、以下のポイントを意識しましょう。
患者の状態や状況を観察し、プライバシーに配慮する
タッチングを行う前には、患者の状態や気分をよく観察し、触れることが適切かどうかを慎重に判断することが大切です。
また、実施する際にはカーテンを引いて空間をつくるなどプライバシーを確保し、患者が安心してケアを受けられる環境を整えましょう。
手の清潔さと温かさを保つ
冷たい手や不衛生な手で触れると、患者に不快感を与えてしまいます。タッチングを行う前には必ず手指が清潔か確認し、必要に応じて手を温めてから触れるよう心がけましょう。
また、手荒れがひどい、乾燥などでカサカサしている場合は、患者の皮膚に刺激を与えないよう注意が必要です。
倫理的配慮とプロフェッショナル意識を持つ
タッチングは身体的な接触を伴うため、患者によってはいらぬ誤解を招く可能性があります。そのため、タッチングを行う際は目的を明確にし、専門的な看護技術として行うことを意識しましょう。
また、患者の反応や表情をよく観察し、不快感を示した場合はすぐに中止する判断も必要です。
タッチングを看護の現場で活かすには?

日々のケアにタッチングを上手に取り入れることで、患者との関係性をより深めることができます。ここでは、タッチングを現場で活かすコツについて紹介します。
タッチングを積極的に取り入れる
タッチングの効果は患者によって異なります。看護の現場で積極的に実施しながら反応を観察し、個々のニーズに応じた方法や力加減、タイミングを工夫していきましょう。
例えば、緊張している患者には優しく手を握り、不安が強い患者には背中をさすってリラックスを促すなど、柔軟な対応が求められます。
いざという場面でタッチングを効果的に行うためには、日々の積み重ねによってタッチングの方法を調整していくことが大切です。
言語的コミュニケーションと組み合わせる
タッチングは非言語的コミュニケーションの一種ですが、言葉を用いた言語的コミュニケーションと組み合わせることで、より高い効果を得ることができます。
例として、不安を訴える患者の手をそっと握りながら「大丈夫ですよ」と声をかけることで、言葉だけでは伝えきれない「あなたに安心してほしい」という思いを、より強く届けることができます。
このように、タッチングと言葉を組み合わせることで、より効果的なコミュニケーションが可能になるでしょう。
まとめ
タッチングは、患者との信頼関係を築くうえで非常に重要な看護技術の一つです。適切な方法で実施すれば、痛みや不安の軽減、リラックス効果につながり、患者の心身の支えになります。
効果的にタッチングを行うためには、患者の状態や意向に十分配慮しながら、目的に応じた方法を選び、必要に応じて言葉によるサポートを組み合わせることが大切です。
本記事を参考に、日々の看護ケアにタッチングを意識的に取り入れ、患者に寄り添う質の高いケアの実践につなげていただければ幸いです。
タッチングの質を高める笑顔のコツについては以下の記事で解説しています。
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編集部
訪看オウンドメディア編集部
訪問看護師として働く魅力をお伝えすべく、日々奔走する白ゆりのWebメディア担当。
ワークとライフに役立つ記事を中心に、訪問看護に関するさまざまな情報を発信しています。