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退院支援看護師の役割は?仕事内容や流れ、向いている人のスキルなどを解説

「退院後、この患者さんはどんな生活を送るのだろう」。多くの看護師が一度は抱く思いではないでしょうか?
患者が退院後も安心して暮らせるようサポート体制を整える看護師を、退院支援看護師と呼びます。「退院支援看護師ってどんな仕事をしているの?」「退院支援と退院調整の違いって?」といった疑問を持つ人もいるかと思います。
高齢化の進行や入院期間の短縮により早期からの退院支援の必要性が高まる中、退院支援看護師の果たす役割はますます重要になっています。
今回は、退院支援看護師の役割や仕事内容、向いている人のスキルなどについて解説します。退院支援に興味がある、自信を持って業務に取り組みたい方は、ぜひ参考にしてください。
訪問看護未経験の方もお気軽にどうぞ!
目次
退院支援看護師とは

退院支援看護師とは、入院中の患者が退院後も自宅や地域で安心して生活できるよう、必要な支援や医療・介護・福祉サービスとの調整を行う看護師です。
超高齢化社会の影響や慢性疾患を抱えた高齢者の増加に伴い、地域全体で患者を支える体制が求められるようになりました。入院治療によって症状が改善しても、退院後の生活に不安を感じる方は少なくありません。再発や病状の悪化を防ぐためにも、予防の視点から適切な支援やサービスを選ぶことが必要になっています。
退院支援看護師は、患者が自分らしく生活できる環境を共に考え、院内外の他職種と連携し、医療の知識を活かしながら支えていく役割を担っています。
退院支援と退院調整の違い
退院支援看護師は、患者の「退院支援」と「退院調整」の両方を担いますが、この2つは厳密には異なる役割です。
在宅ケア移行の専門家である宇都宮宏子氏は、退院支援と退院調整を以下のように定義しています。
退院支援
患者が自分の病気や障害を理解、受けとめ(折り合いをつけながら)、どのような生活を送るか、どこで療養するのかを自己決定するための支援退院調整
患者の自己決定(願い)を実現するために、患者・家族の意向もふまえ、必要な環境・ヒト・モノを、社会保障制度や社会資源へつなぐ在宅療養へのコーディネートである引用:宇都宮宏子「地域で“暮らす”そして“生ききる”に併走する医療」日本呼吸ケア・リハビリテーション学会誌 2019年,第28巻,第2号:214
つまり、「退院支援」は意思決定を促すプロセスであり、「退院調整」はその意思を叶えるための具体的な手配・調整のことです。両者は切り離せない関係にあり、退院支援の一部として退院調整が位置づけられています。
実際の現場でも明確に区別せず、連続した一連の支援として取り組む病院も多く見受けられます。
病棟看護師との違い
病棟看護師も退院に向けたサポートに関わります。例えば、糖尿病の患者で血糖測定とインスリンの自己注射が毎日必要な場合、入院中に血糖測定や自己注射の手技を指導するのは病棟看護師の役割です。
一方、退院後も継続的な医療的支援が必要と判断された場合、訪問看護の導入調整は退院支援看護師が行います。
このように、病棟看護師も広い意味で退院支援に関わりますが、スポット的な役割になります。退院支援看護師は入院中の様子だけでなく、患者のセルフケア能力や家庭環境なども含めて総合的にアセスメントし、他職種と連携しながら継続的、包括的な支援を計画・実施します。
医療ソーシャルワーカー(MSW)との違い
医療ソーシャルワーカー(MSW)も退院支援・調整に関わりますが、社会的・制度的な支援を担うのが特徴です。両者の専門性は異なりますが互いに協力し合いながら患者の退院に向けて尽力します。
退院支援看護師
主に患者の身体的側面から必要な医療や社会資源を考慮します。病棟看護師やリハビリスタッフと入院中の様子を共有し、退院後に必要な医療サービスを調整することが多く、医師、訪問看護師、ケアマネジャーなどと連携を図ります。
医療ソーシャルワーカー(MSW)
患者の社会的背景や家庭環境を踏まえて支援を行います。社会的資源や保険制度に詳しく、介護保険の申請など各種書類手続き、福祉サービスの利用、さらには経済的な側面から家族と関わります。
退院支援の基本的な流れ
退院支援は下記のようなプロセスに沿って行われます。患者や家族の状況に応じて柔軟に対応し、必要に応じて各プロセスを繰り返すこともあります。
プロセス | 退院支援の主な内容 |
入院時 | ・スクリーニング実施(入院決定~入院後48時間以内) ・スクリーニング後1週間以内にアセスメント実施 |
入院中 | ・退院支援計画書の作成(入院から1週間前後) ・院内カンファレンスの実施・医療/福祉サービスとの調整 |
退院前 | ・他職種によるカンファレンスの実施 ・具体的なサービスの調整、連携 |
退院後 | ・退院後数日以内にモニタリングを実施 ・必要時の再支援/調整・外来での継続支援 |
すべてのプロセスが終了した後は支援全体の評価を行い、今後の支援体制や組織内の課題改善に活かしましょう。
参考:公益社団法人山梨県看護協会「退院支援マネジメントガイドライン」
退院支援看護師の仕事内容

退院支援看護師の業務は、前述のプロセスに沿って展開されます。ここでは各フェーズにおける具体的な仕事内容を詳しく解説していきます。
【入院時】スクリーニング
まず最初に、入院決定〜入院後48時間以内を目安にスクリーニングを実施します。目的は、退院支援が必要かどうかを判断するためであり、通常はスクリーニングシートを用いて多角的に評価します。
【評価項目の一例】
・現病歴・既往歴
・ADL(基本的日常生活動作)
・IADL(手段的日常生活動作)
・家庭環境
・保険制度の利用状況
・セルフケア能力
早期のスクリーニングにより、必要な支援を早い段階で見極め、適切な関係機関との連携を促進できます。
仮に、この段階で退院支援が必要ないと判断された場合でも入院中に状態が変化する可能性はあるため、適宜再評価していくことが大切です。
【入院時】アセスメント
スクリーニングで支援が必要と判断された後は、1週間以内を目安にアセスメントを実施します。スクリーニングで得た情報から課題を抽出し具体的な対策を検討するためで、評価は「医療的側面」と「生活的側面」の2つから客観的かつ多角的に分析することが重要です。
【生活的側面の一例】
・疾患や治療の受け止め方
・退院後の生活に対する不安
・家族の介護体制
医師による説明の際には、可能な限り看護師も同席し、本人・家族と支援方針を共有することが望ましいです。
また、患者が介護保険を利用している場合、アセスメント実施までにケアマネジャーから「入院時情報提供書」を取得しておきましょう。入院前後の状況を円滑に比較でき、より正確な評価が可能になります。
【入院中】退院支援(調整)の実施
看護師はスクリーニングとアセスメントの結果を基に、具体的な退院支援を進めていきます。退院支援の実施においては、入院から退院までを通して、本人および家族の希望や意向を尊重することを前提に進めます。
まず、医療的側面と生活的側面の両面から課題を整理し、入院から1週間を目処に退院支援計画書を作成します。
その後、院内カンファレンスを実施。各職種が把握している情報や課題を共有し、退院後の生活を具体的にイメージしながら支援の方向性を検討します。
この段階から、退院日が決定していなくても可能性を想定した連携準備を進めます。「このようなケースで訪問看護の導入は可能か」といった早期相談も、退院支援看護師の重要な役割です。
【退院前】カンファレンス
退院の目処が立ち次第、他職種による退院前カンファレンスを実施します。患者や家族が参加することで意向を直接確認するだけでなく、医療スタッフへの信頼感を高めることにもつながります。
主な参加者 | |
院内 | 主治医、看護師(病棟、退院支援、外来)、薬剤師、 リハビリスタッフ、医療ソーシャルワーカー |
院外 | 訪問診療関係者、訪問看護師(リハビリ)、ケアマネジャー、 訪問介護士、福祉用具担当者、保健師 |
退院前カンファレンスでは、退院後にどのような支援やサービスが必要かを他職種間で確認・検討していきます。例えば、訪問診療や訪問看護の導入に際しては、初診日や訪問頻度などについて、その場で具体的な調整を行うこともあります。
福祉用具が必要な場合には、この時点で自宅訪問による住環境評価と用具の選定なども実施します。
【退院後】モニタリング
退院後のモニタリングは、退院から数日後に患者や家族の生活状況を確認する業務です。本人だけでなくケアマネジャーや訪問看護師などの在宅スタッフからも情報を収集し、必要に応じて病院側からも支援を行います。
また、患者が外来通院をしている場合は外来看護師と連携して情報共有とモニタリングを行うことで、退院前には想定できなかった問題を早期に発見することができるようになります。
モニタリングの結果は支援の評価にもつながるため、次のケースに活かせる大切なフィードバック資源となるのです。
退院支援看護師の1日の主な業務内容
退院支援看護師は、患者や関係機関との連絡・調整業務が多いため、日勤帯での勤務が一般的です。以下は1日の業務内容の一例で、関係機関の予定も加味しながら臨機応変に動いていきます。
主な業務内容 |
・メール確認 ・情報収集 ・記録業務 ・カルテ記入 ・書類作成 ・カンファレンス参加 ・患者、家族との面談 ・医師との情報共有 ・退院カンファレンスの日程調整 ・関係機関(訪問看護などの社会資源)と連絡 ・病棟ラウンド(必要時病棟カンファレンス参加) ・MSWやケアマネジャーなど関係機関との連携打ち合わせ |
退院支援看護師として働くメリット・デメリット
退院支援看護師は、退院後の患者の生活を守る大切な役割を担い、大きなやりがいを感じられる職種です。一方で、実際に働くとなると難しさや負担も伴います。
メリット
退院支援看護師として働くメリットは以下の通りです。
・患者や家族と関わる機会が多い
・退院後の生活支援に携われる
・他職種と関わることができる
・夜勤がない
・土日や祝日休みの勤務形態が多い
・社会保障制度、福祉サービスに関する知識が身につく
・在宅医療の分野に活かせる経験が得られる
退院支援看護師は夜勤がなく、平日のみの勤務帯が多いことが最大の魅力です。患者や家族とじっくりと向き合うことができ、大きなやりがいを感じられる仕事でもあります。
また、他職種との連携を通じてチーム医療の重要性を学ぶことができるのも特徴の一つで、このような経験を活かして将来的に在宅医療の分野に進む方も多く見られます。
デメリット
退院支援看護師として働くには、以下のようなデメリットも存在します。
・業務量が多く、負担が大きい
・広範な知識が求められ、学ぶことが多い
・院内外との連携/調整に労力を要する
・求人数が限られている
・一定の臨床経験が求められる傾向がある
・夜勤がないので病棟からの異動で給与が下がることがある
退院支援看護師は、150床以上の病院に1〜2名配置されるのが一般的なため、1人あたりの業務負担が大きいだけでなく、求人数自体も限られてきます。
また、関係機関との連携を図ると同時に、それらをまとめあげる調整力も必要です。看護師としての知識に加え、さまざまな制度やサービスについての幅広い理解が求められるほか、一定の臨床経験が必要とされる場合もあります。
退院支援看護師に向いている人のスキル・特徴

退院支援看護師に必要な資質は、一般的な看護業務とは異なる面も多く、人によって向き・不向きがあります。
退院支援看護師に向いている人の特徴は以下の4項目です。
チームでの連携・調整が得意
退院支援においては、他職種との連携が不可欠です。各専門職の意見を尊重し、全体をまとめあげる調整力が求められます。
また、院内だけでなく院外の関係機関とも連携を図るため、電話対応を含めた社会人としての接遇マナーにも十分な配慮が必要です。
退院支援看護師は、外部との橋渡し役として病院の顔となる立場であり、その対応が病院の印象を左右することもあるのです。
患者の希望を汲み取る傾聴力がある
患者の退院後の生活を守る上で最も大切なのは、本人の意向や希望を正確に把握し、それを反映していくことです。そのためには本人の気持ちに寄り添い、ニーズを汲み取ることができる傾聴力が必要になってきます。
相手の立場になって一緒に考えていくことは、決して簡単ではありません。本人や家族の本音を引き出すためには、コミュニケーション能力や環境を整える力も重要になってきます。
社会福祉に関する知識がある
退院支援の調整を行う際には、医療的側面と生活的側面の両方から評価していく必要があり、医療的なサポートに加えて、患者の生活面にも目を向けなければなりません。そのため、社会資源や各種制度に関する知識が不可欠です。
退院支援を必要とする患者は、疾患だけでなく、年齢や性別、住環境、経済状況など、背景が一人一人異なります。それぞれの情報を総合的に判断し、最適なサービスにつなげるための基礎知識が求められるのです。
退院後の生活を支援したい気持ちがある
退院後の生活を支援したいという気持ちが強い人は、退院支援看護師に向いていると言えるでしょう。入院中だけでなく、退院後の生活までサポートできるというのは、貴重な経験であり、大きなやりがいにもつながります。
また、退院支援看護師は院内でも1〜2名の配置となることが多く、1人にかかる責任やプレッシャーが大きくなる傾向があります。そのため、情熱や責任感を持つことは強みとなり、患者や家族からの信頼や安心感にもつながります。
退院支援看護師になるには?

退院支援看護師として勤務するには、退院調整部門のある病院に所属することが前提です。しかし、前述の通り、ある程度の規模を持つ病院であっても1〜2名程度の配置と限られており、非常に狭き門と言えます。
さらに、病院によっては他の業務と兼務している場合もあり、専任での勤務となると一層ハードルが高くなります。
特別な資格は不要
退院支援看護師になるために特別な資格は必要なく、看護師の資格さえあれば勤務することは可能です。
しかしながら、退院支援は幅広い知識と調整力が必要になってきます。そのため、臨床経験3年以上とある程度の経験が求められるケースが多く、管理職やリーダー経験があると優遇されることもあります。
また、ケアマネジャーや専門・認定看護師などの資格を持っていると、さらに有利になるでしょう。
在宅のスキルや経験が優遇される場合もあり
退院支援は在宅支援の入り口でもあるため、訪問看護や介護施設での経験は大きな強みとなります。
保険制度や地域資源に関する知識が豊富であれば、支援の提案にも説得力が生まれます。また、ケアマネジャーや訪問診療医といった他職種との連携経験があれば、退院支援看護師としてさまざまな場面でそのスキルを活かすことができるでしょう。
そのため、退院支援業務を経て訪問看護や地域包括支援センターに転職する人も多く、キャリア形成の上でも大きなステップになります。
研修・育成プログラムを活用する
退院支援看護師の育成を目的とした研修プログラムを提供する地域もあり、保険制度や福祉サービス、地域連携に関する知識、実例を用いた退院支援の進め方など、実践に直結する内容が学べます。
退院支援に関心がある方は、こうした機会に積極的に参加するのも方法の一つです。
まとめ
今回は退院支援看護師の役割や仕事内容、向いている人の特徴などについて解説しました。
退院支援看護師は、患者の退院後の生活を支える重要な役割を担っています。病棟勤務とは異なるスキルが求められる分、やりがいや専門性は高く、在宅医療や地域包括ケアの未来を担う存在でもあります。
退院支援の業務に関心がある方は、ぜひ挑戦してみてください。
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対談インタビュー前編:白ゆり訪問看護の「いま」と「これから」に迫る
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編集部
訪看オウンドメディア編集部
訪問看護師として働く魅力をお伝えすべく、日々奔走する白ゆりのWebメディア担当。
ワークとライフに役立つ記事を中心に、訪問看護に関するさまざまな情報を発信しています。