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訪問看護の家族支援が重要な理由は?具体的な支援内容や関わり方のポイントも解説

訪問看護の利用者が自宅で療養生活を送るにあたって、日常的なケアを担うのは家族です。そのため訪問看護では、利用者本人だけでなく介護の中心となる家族への支援も必要になります。
しかし、実際に現場でケアを行う訪問看護師の中には、「家族にどのような支援をすればいいのか」と難しさを感じている人もいるのではないでしょうか。特に、病院から訪問看護に転職した人にとっては、慣れない家族との関わりに戸惑いがあるかもしれません。
この記事では、これから訪問看護に携わる看護師や、実際に働いている訪問看護師に向けて、訪問看護における家族支援の重要性や支援の内容・関わり方のポイントを解説します。
訪問看護未経験の方もお気軽にどうぞ!
目次
訪問看護の家族支援が重要な理由

訪問看護では定期的に利用者宅を訪問しますが、看護師が関わるのは一定の限られた時間です。それ以外の時間は家族が中心となって介護を担っているため、利用者が安心して日常生活を送るためには家族の協力が欠かせません。
訪問看護では利用者本人のケアだけではなく、在宅療養を支える家族に対してもサポートしていくことが重要になります。在宅において家族支援がどのような影響を与えるのかは、以下に説明していきます。
家族の心身状態が利用者の生活の質に直結する
在宅療養を継続するためには、家族の心身の健康が保たれる必要があります。家族が疲弊してしまうと、適切な介護の提供が困難になるだけでなく、療養生活そのものの継続が困難になる可能性があるからです。
家族の心身状態が安定していれば利用者は安心して在宅生活を送りやすくなり、それが生活の質(QOL)の向上にもつながります。
家族支援が利用者の意思決定を支える土台になる
病院では疾患の治療が目的になりますが、在宅では利用者や家族の意向に沿ったケアが重要になります。そのため、延命治療の方針や人生の最期をどこで迎えるかといった選択についても、その都度、利用者とその家族の意思を確認する要があります。
しかし、家族が利用者を思うあまり、家族間で意見が食い違うことや利用者本人と家族の意見が異なっってしまうことも珍しくなく、意思決定がスムーズに進まないケースもあります。
こうした状況において、訪問看護師は起こりうる病状の変化も踏まえながら、利用者と家族が納得して意思決定ができるよう、在宅療養を支える立場から支援することが求められます。
在宅療養において家族が抱える課題

利用者が療養生活を送る中で、家族にはさまざまな負担がのしかかります。
介護を担う家族と一口に言っても、性別や年齢、社会的な立場、家庭環境などは多様であり、介護に対する考え方や受け止め方も異なります。
そのため、訪問看護師は家族がどのような悩みや困難を抱えやすいのかを事前に把握し、各家庭の状況に応じた支援や提案を行う必要があるのです。ここでは、介護にあたる家族が抱えやすい課題について詳しく解説します。
身体的・精神的・経済的な悩み
家族が抱えやすい悩みとして、身体的・精神的・経済的の3つの側面があります。厚生労働省の資料によれば、家族介護者3,000人に対する調査結果として以下のような傾向が示されています。

出典:厚生労働省「市町村・地域包括支援センターによる家族介護者支援マニュアル」P2
具体的に抱えている負担の内容は次のとおりです。
- 身体的な悩み
- 食事、排せつ、着替え、移乗といった身体介助により、体力的につらいと感じる
- 腰痛や関節痛など、身体を痛めるリスクがある
- 夜間の介護で十分な睡眠が取れず、生活リズムが崩れる
- 精神的な悩み
- 介護の終わりが見えず、将来への不安が募る
- 自分の時間を確保できない、家にこもりがちになることから孤独感や閉塞感を感じる
- 認知症による意思疎通の困難さがストレスとなる
- 経済的な悩み
- 年金収入だけでは介護サービスの費用負担が重い
- 介護によって離職や休職を余儀なくされ、収入が減少する
このような悩みは、家族構成や生活背景により変化します。訪問看護師は、家族における個別性を重視しながら適切にアセスメントを行い、ときには介護保険サービスや地域資源の利用を提案します。
介護者の高齢化
下記の図によると、要介護者と同居している主な介護者のうち、60歳以上の割合は2022年時点で77.1%にのぼり、65歳以上が63.5%、75歳以上も35.7%と、介護者自身の高齢化が進行していることがわかります。

出典:厚生労働省「2022(令和4)年 国民生活基礎調査の概要 Ⅳ介護の状況」P25
この背景には、単独世帯や高齢夫婦のみの世帯の増加といった社会構造の変化があります。いわゆる「老老介護」が一般化しつつあり、高齢の介護者は自身の体力の衰えや健康不安を抱えながら介護という重責に向き合わなければなりません。
介護する側が心身ともに疲弊すると介護の質の低下につながります。訪問看護においては、介護者が介護認定を受けている場合には家族を対象とした支援も必要です。
介護の長期化・重症化
医療の進歩や高齢化に伴って病院の入院期間の短縮や平均寿命が伸び、在宅での療養期間は長期化しています。また、高齢になるほど病状や認知機能の低下が進むため、介護の量や質はより複雑・重度化する傾向にあります。
長期にわたる介護は、家族に次のような影響をもたらします。
- 精神的、身体的疲弊の蓄積
- 就労との両立困難による経済的困難
- 施設入所待機などによる継続的な在宅介護への不安
特に、いざ施設入所を検討してもすぐに入所できないケースは珍しくなく、それまでのつなぎの期間に家族が疲弊しきってしまう例も少なくありません。
こうした課題に対して、訪問看護師にはいかに早急にアセスメントし対処を検討できるかが求められます。
家族支援における訪問看護師の役割
先にも述べた通り、利用者が自宅で療養生活を続けるには家族の協力は不可欠であり、家族の健康状態は介護の質に大きく影響します。
そのため訪問看護師には、利用者と家族の関係性、家族の介護力、介護の状況を的確に把握し、家族の負担が過度になっていないかを常にアセスメントすることが求められます。
また、医師やケアマネジャー、リハビリ職などの他職種と連携を図り、家族が安心して介護に取り組める環境を整えていくことも、訪問看護師が担う重要な役割の一つです。
訪問看護師が行う家族支援の内容

訪問看護師が現場で行う家族支援はさまざまですが、ここでは主な4つの支援内容について解説します。
- 健康状態に関する相談
- 技術面の指導
- 精神的なサポート
- 生活環境のアドバイス
健康状態に関する相談
訪問看護師は、利用者の健康状態のケアだけでなく、家族からの医療的な不安や疑問に対する相談に応じ、必要なアドバイスを提供します。
例えば、
「今後、病状はどうなっていくのか」
「これが急変のサインなのかどうか」
「この症状は受診のタイミングか」 といった相談です。
在宅は病院のように医師や看護師がすぐに駆けつけることができないため、家族はささいな変化にも気を配ります。
訪問看護師は、家族が不安に思う点をわかりやすく説明し、病状の変化に対する予測や対応方法を前もって共有することが重要です。こうした情報提供により、家族も心構えがしやすく、安心感を得ることができます。
また、家族が不安なく介護に取り組めるよう、緊急時における連絡体制について事前に説明しておくことも大切です。
技術面の指導
在宅では、家族が身体介助や医療機器の操作などを行う機会が多くあります。しかし、住宅環境や介護者の体力、理解度には個人差があるため、画一的な方法では対応できない場面も少なくありません。
そのため、訪問看護師は以下のような配慮をしながら家族に指導を行います。
- 家族の介護力に応じて段階的に指導する
- 家庭の環境に合わせた介助方法を工夫する
- 医療機器の取り扱い方法を視覚的にわかりやすく説明する
- できないことを責めることなく、一緒に方法を考える姿勢で接する
家族だけで適切な介護が困難な場合には、それを補う介護サービスの利用を提案することもあります。他の介護・福祉サービスの導入については、ケアマネジャーと連携しながら進めましょう。
精神的なサポート
介護において、家族の不安からくる精神的ストレスや孤独感は深刻な問題です。そのため、訪問看護師は定期的な訪問を通して家族の様子を観察し、以下のような支援を行います。
- 介護の労をねぎらう声かけ
- ストレスや不安に対するアセスメント
- レスパイトケアの提案(ショートステイやレスパイト入院など)
特に、ターミナル期においては病状の急変や死に対する不安が強くなるため、訪問看護師が家族の心に寄り添い、傾聴しながらサポートすることが欠かせません。
状況によっては、家族と共に利用者のケアを行い、「一人で抱え込まなくても大丈夫」だと伝えることが精神的な支えになります。
生活環境のアドバイス
在宅療養では、住環境の整備や福祉用具の活用によって介護負担が変化します。しかし、介護に不慣れな家族ほど、どのようなサービスが存在するのか、どのような道具がレンタルできるのかわからず、苦労しているケースが多く見受けられます。
訪問看護師は、以下のような観点からアドバイスをしましょう。
- 利用者のADL(日常生活動作)に合った福祉用具の選定
- 家族の介護負担を軽減するための導線や生活環境の工夫
- 公的サービスや地域資源の活用方法の提案
これらの支援を行う際は、ケアマネジャーとの連携が不可欠です。訪問看護師が橋渡し役になることで、家族が安心して介護を続けられる体制づくりが可能になります。
訪問看護師が家族支援をするときのポイントは?
訪問看護師は、利用者へのケアを継続しながら、その家族との信頼関係も少しずつ構築していきます。定期的な訪問を通じて会話を重ねることで、介護に関する悩みや不安を打ち明けてもらいやすくなり、結果的に看護の質の向上にもつながります。
家族支援における共通のポイントは以下の通りです。
POINT
- 医療的な説明では専門用語を避け、平易な表現で伝える
- 指導の際は画像や実演、書面での説明を用いる
- 正確な情報共有のため、連絡ノートやメモ、電話、ICTツールなどを活用する
- 家族の声に耳を傾け、必要に応じて時間を確保して傾聴する
訪問先によって家庭環境はさまざまであるため、家族支援においては一概に「こうするべき」と言えない部分もあります。何よりも大切なことは、利用者とその家族との信頼を深めながら、その人らしさを尊重した支援を行うことです。
訪問看護師は、家族の悩みに寄り添い、医療の専門職として「どのような選択があるのか」を提示し、家族が介護を継続できるよう支えていくことが重要です。
まとめ
訪問看護における家族支援の重要性、支援内容、訪問看護師としての関わり方について解説しました。
何度も伝えていますが、在宅療養は家族の協力によって成り立っています。だからこそ、訪問看護師が限られた訪問時間の中で家族に寄り添い、配慮のある声かけや支援を行うことが、利用者の生活の質向上と療養生活の継続につながるのです。
訪問看護師が家族を支える視点を持つことで、利用者・家族ともに安心できる療養環境を整えることができます。日々の業務において、家族支援の意識を持ち、実践に活かしていくことが大切です。
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編集部
訪看オウンドメディア編集部
訪問看護師として働く魅力をお伝えすべく、日々奔走する白ゆりのWebメディア担当。
ワークとライフに役立つ記事を中心に、訪問看護に関するさまざまな情報を発信しています。