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【看護師向け】エンパワーメントとは?現場での実践ステップ・コツを紹介

研修や勉強会で「エンパワーメントが大切」と耳にしたことはあっても、実際の現場での実践イメージが湧かない方も多いのではないでしょうか。
看護におけるエンパワーメントとは、患者さま自身が持つ力を引き出し、自ら意思決定・行動できるよう支援するアプローチのことをいいます。退院支援や慢性疾患の療養指導など、患者さまの「その人らしい生活」を支えるうえで欠かせない考え方です。
本記事では、エンパワーメントの基本概念から看護現場での実践ステップ、信頼関係を築くコミュニケーションのコツまで、現場ですぐに活かせる内容をわかりやすく解説します。
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目次
エンパワーメントとは

エンパワーメント(Empowerment)とは、もともと「権限を委譲する」「自信を持たせる」という意味を持つ言葉です。
1960〜70年代のアメリカにおける公民権運動のなかで、社会的に弱い立場に置かれた人々が自分の力を発揮できるよう社会を変革するという考えから広まりました。
日本看護科学学会では、看護におけるエンパワーメントを「人々が自己の生活をコントロールし、決定する能力を開花させていくプロセス」と定義しています。
つまり、看護師が患者さまとパートナーシップを築き、本来持つ力を引き出しながら、自ら意思決定・行動できるよう支援することを指します。
ここで大切なのは「すべての人は、自ら成長し自己決定する力を持っている」という前提です。看護師の役割は答えを教える指導者ではなく、患者さまの力を引き出す伴走者となることにあります。
参考:公益社団法人日本看護科学学会「エンパワーメント 」
エンパワーメントの2つのアプローチ
エンパワーメントには「構造的エンパワーメント」と「心理的エンパワーメント」の2つのアプローチがあります。
構造的エンパワーメント
社会的な力に着目する考え方のアプローチです。
ビジネスの場面では、上司から部下へ権限を委譲し、一人ひとりが能力を発揮できる体制を築くケースが代表例です。
心理的エンパワーメント
当事者の内面に着目したアプローチです。
行動と成功体験を積み重ねるなかで自己効力感(「自分ならできる」という感覚)を高め、本来持っている力を引き出すことを重視します。
看護現場で中心となるのは心理的エンパワーメントです。患者さまが「やればできる」という自信を持ち、治療や療養に主体的に取り組めるよう看護師が関わっていきます。
看護現場にエンパワーメントが必要な理由
現在の日本の医療を取り巻く環境の変化を考えると、看護におけるエンパワーメントの重要性はますます高まっています。その背景には大きく2つの要因があります。
高齢化・慢性疾患の増加によるセルフマネジメント力の重要性
高齢化の進展に伴い、糖尿病や高血圧、慢性心不全といった慢性疾患を抱える患者さまが増加しています。
慢性疾患は退院後も治療が続くため、患者さま自身が服薬管理や食事・運動療法などのセルフマネジメントを続ける必要がありますが、医療者からの一方的な指導だけでは主体的な行動につながりにくいです。
そのため、エンパワーメントを通じて患者さまの自己管理能力を引き出すことが求められています。
在宅ケアの広がりと「本人の意思」を軸としたケアの実現
在宅医療の広がりにより、患者さまやご家族が生活のなかでケアの主体となる場面が増えています。
在宅療養では看護師が常にそばにいるわけではないため、患者さまやご家族が自ら考え、判断する力が欠かせません。
だからこそ、「その人がどう生きたいか」という本人の意思をケアの軸に据え、その力を引き出すエンパワーメントの実践が、より重要になっています。
エンパワーメントの8原則
エンパワーメントを実践するうえで基盤となる8つの原則があります。
①目標を当事者が選択する。
②主導権と決定権を当事者が持つ。
③問題点と解決策を当事者が考える。
④新たな学びとより力をつける機会として、当事者が失敗や成功を分析する。
⑤行動変容のために内的な強化因子を当事者と支援者の両方で発見し、それを増強する。
⑥問題解決の過程に当事者の参加を促し、個人の責任を高める。
⑦問題解決の過程を支えるネットワークと資源を充実させる。
⑧当事者のより良い状態(目標達成やウェルビーイングなど)に対する意欲を高める。
引用:福島市社会福祉協議会「令和2年3月 第3回策定委員会資料「エンパワメントの理論と技術の活用~変化に対処し、次の発展を生み出す力~」
8つの原則には、すべてに「当事者」という言葉が含まれていることから、エンパワーメントの原則は当事者主体であることがわかります。
看護の場面に置き換えると、目標設定から問題発見・解決策の決定まで患者さまが主役であり、看護師はその力を引き出す支援者であることを意味しています。
【実践】看護におけるエンパワーメントの支援設計

エンパワーメントを効果的に実践するためには、段階的な支援設計が重要です。ここでは5つの段階に分け、各ステップで「何をするか」「具体的な声掛け」「ポイント」を紹介します。
①もたらしたい成果を決める
最初に、エンパワーメントで引き出したい力(もたらしたい成果)を明確にします。
たとえば、糖尿病で食事管理が苦手な患者さまなら「患者さまが食事管理に前向きに取り組めるようになる」が成果の例です。
成果を決めるポイントは、現実的に達成可能な内容にすること。理想が高すぎると達成感を得にくく、モチベーション低下につながりかねません。
②現状の問題点・課題を掘り下げる
①で設定した成果を実現するうえ、問題点・課題を明確にします。その際、看護師が一方的に課題を指摘するのではなく、患者さまとの対話を通じて一緒に掘り下げることが重要です。
声掛けの例:
「入院してから、日常生活で困っていることはありますか?」
「退院後の生活で不安に感じることはありますか?」
このような声掛けをしながら、患者さま自身が問題点を自分事として捉えられるよう、言葉に耳を傾け、気づきを引き出すことを優先しましょう。
③目標を決める
問題点・課題を解決するための具体的な目標を設定します。
目標は無理なく達成できるレベルに設定し、長期的な計画では簡単なものから段階的にステップアップする形が効果的です。
最も大切なのは、目標を決めるのはあくまで患者さま自身であることです。看護師は選択肢の提示やアドバイスを行いますが、最終的な決定は患者さまに委ねます。
「〇〇さまが一番取り組みやすいと感じるのはどれですか?」と問いかけ、患者さまの意思を引き出しましょう。
④目標達成に向けた計画を立てる
次に、目標達成のための具体的な行動計画を立てます。計画の立案者は患者さま自身で、看護師は患者さまの求めに応じて方法を提案します。
ただし、提案の中から何を選ぶかは患者さまに委ねましょう。
たとえば、食事管理だと「間食を1日1回に減らす」「週3日は野菜を多めにしたメニューにする」など、患者さまの生活に合った複数の選択肢を提示し、選んでもらいます。
必要であれば、ご家族への説明やサポート体制の検討も合わせて実施します。
⑤行動の結果を評価する
最後は、計画に沿って行動した結果を患者さま自身に評価してもらいます。その際、看護師は振り返りを促す声掛けを行いましょう。
声掛けの例:
「やってみて、どんなことに気づきましたか?」
「大変だったのはどんなところでしたか?」
ここでのポイントは、評価基準を「成功か失敗か」に置かないことです。目標を完全に達成できなくても、行動を通じてどんな気づきを得られたかに焦点を当てることで、次の行動につながりやすくなります。
この気づきをもとに①へ戻り、サイクルを繰り返すことでエンパワーメントの効果が高まります。
支援設計を踏まえた実践例
ここでは先述した①〜⑤の支援設計を活用したエンパワーメントの実践例を紹介します。
エンパワーメントの実践例
心不全で入院中のAさま(70代)
課題:退院後の食事の塩分管理
【①もたらしたい成果】
退院後、Aさまが自分の体調に合わせて食事の塩分摂取量をコントロールできるようになること。
【②問題点・課題の掘り下げ】
看護師との対話で、「長年の味付けの習慣を変えるのが難しい」「一人暮らしなので毎食自炊するのが大変」というAさまの本音が見えてきました。
一方的に「塩分を控えてください」と伝えるのではなく、Aさまの生活背景を踏まえて課題を共有します。
【③目標の設定】
Aさまと相談し、「まずは1日1食だけ減塩メニューに挑戦する」という達成可能な目標をAさまの言葉で設定しました。
【④計画の立案】
看護師から「だしの風味を活かした味付け」「市販の減塩調味料の活用」など複数の調理方法を提案。Aさまは「だしを活かす方法なら続けられそう」と選択しました。
退院前に栄養士との相談の機会を設け、ご家族にも週末に一緒に料理するサポートを依頼しました。
【⑤結果の評価】
退院2週間後の外来受診時、Aさまは「減塩の味噌汁を作ってみたら思ったよりおいしかった。ただ、お惣菜を買う日はつい塩分が多くなる」と話しました。
看護師は「ご自分で工夫して作られたのはすばらしいですね」と進歩を認めたうえで、「お惣菜のときに工夫できそうなことはありますか?」と次の気づきを促しました。
このサイクルを繰り返すことで、Aさまは自分のペースで塩分管理を生活に取り入れていきました。
エンパワーメントは信頼関係が重要!関わり方のコツは?

エンパワーメントは、看護師が患者さまに併走し、本来の力を引き出すものです。これには相手との信頼関係の構築が欠かせません。
ここでは、エンパワーメントを効果的にするためのコミュニケーションのコツを紹介します。
患者さまの価値観や生活背景を理解する
エンパワーメントの第一歩は、患者さまがどのような価値観を持ち、どのような生活を送っているかを知ることです。
仕事・趣味・家族構成・食生活の習慣などを丁寧に聞き取ることで、患者さまが本当に抱えている悩みや問題点を探りやすくなります。
「これまでの生活のなかで大切にしていることは何ですか?」と問いかけ、価値観に寄り添う姿勢を示しましょう。
共感する
患者さまの話を聴くときは、批判的な態度ではなく共感の意思を示しながら接することが大切です。
たとえば「わかっているけどなかなかできない」という声に対し、「お気持ちはよくわかります。変えていくのは簡単ではないですよね」とまずは受け止めましょう。
共感の姿勢が伝わることで患者さまは安心して本音を話せるようになり、信頼関係を築きやすくなります。
【関連記事】
看護における傾聴の姿勢とは?実践方法・高めるスキルまで解説
患者さまが自ら考える機会をつくる
看護師が一方的に知識を伝えるのではなく、患者さま自身が考える機会を意識的につくりましょう。
「こうするべきです」と答えを示すのではなく、「どうすれば続けやすいと思いますか?」と問いかけることで、患者さま自身の気づきを促せます。
自分で得た気づきは行動に結びつきやすく、エンパワーメントの本質である「自分の力で問題を解決する」プロセスにつながります。
小さな努力や進歩を受け止める
患者さまの小さな努力や進歩を受け止めることが、モチベーションの維持・向上に直結します。「少しずつ変化が出てきていますね」と伝えることで、自信と意欲を支えます。
目標を達成できなくても失敗として捉えず、学びの機会として前向きにつなげましょう。「うまくいかなかった部分も大切な経験です。次に活かせることを一緒に考えましょう」と声をかけることで、患者さまは安心して次の挑戦に向かえます。
まとめ
看護におけるエンパワーメントは、患者さまが自分の力で健康上の課題に向き合い、自ら意思決定・行動できるよう支援するアプローチです。
看護師の役割は教えることではなく、患者さまが本来持つ力を引き出し伴走することにあります。本記事で紹介した支援設計①〜⑤を繰り返すことで、患者さまの自己効力感は少しずつ高まっていきます。
その土台となるのは患者さまとの信頼関係です。日々のコミュニケーションのなかで、当人の話に共感を示し、小さな進歩を認め、患者さまの考えを尊重する姿勢を大切にしてください。
この記事を参考に、明日からの看護実践に活かしてみましょう。
エンパワーメントは看護師だけでなく、リハビリ職にも共通する考え方です。白ゆりで活躍する理学療法士のIさんも、「利用者さんらしさを尊重し、最終的な判断は本人に委ねる」という姿勢を大切にしています。
現場スタッフのリアルな声が気になる方は、ぜひこちらのインタビューもご覧ください。
👉 利用者さんの生活向上を目指して。理学療法士が在宅を選び、成長を続ける訳とは
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編集部
訪看オウンドメディア編集部
訪問看護師として働く魅力をお伝えすべく、日々奔走する白ゆりのWebメディア担当。
ワークとライフに役立つ記事を中心に、訪問看護に関するさまざまな情報を発信しています。