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高齢者とのコミュニケーションで看護師が意識すべき留意点は?よくある場面と対応例

高齢者とのコミュニケーションで看護師が意識すべき留意点は?よくある場面と対応例

「高齢者との関わりが苦手」「距離の取り方がわからない」と悩む看護師は少なくありません。

こうした悩みは誰にでも起こりうる自然なものです。しかし、高齢者の心身の特徴や心理背景を理解し、適切なスキルを身につけることで改善していくことができます。

この記事では、高齢者とのコミュニケーションで看護師が意識すべきポイントや、よくある場面での対応例を紹介します。高齢者との関わりに不安がある看護師は、ぜひ参考にしてください。

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看護師が高齢者とコミュニケーションをとる際に知っておきたいこと

高齢者とコミュニケーションをとっている看護師

高齢者との円滑なコミュニケーションのためには、まず高齢者特有の心身の状態や変化を理解し、その上で敬意を持って接する姿勢が欠かせません。

高齢者は人生経験が豊富な「人生の先輩」であり、その人なりの価値観や生き方があります。相手の立場に立ち、一方的にならない双方向のやり取りを意識しましょう。

高齢者の身体的・精神的特徴

高齢者は加齢により、身体機能・精神状態にさまざまな変化が見られます。こうした変化や特徴を理解することは関わり方のヒントを得られるだけでなく、無用なトラブルを回避することにもつながります。それでは、身体面・精神面に分けて解説します。

身体的特徴

人は年齢を重ねるごとに、身体面においてさまざまな変化が生じてきます。高齢者の身体的特徴には以下のような項目があります。

・ 免疫力低下
・ 恒常性機能の低下
・ 重症化、慢性化のリスクが高い
・ 合併症のリスクが高い
・ 筋力、体力の低下
・ 神経、感覚器系(視力・聴力、嗅覚、味覚、平衡感覚、反射)機能低下

特に視力・聴力の低下は、会話の聞き取りや反応の遅れに直接影響するため、その人の状態に合った接し方を工夫する必要があります。次に、心の側面に目を向けてみましょう。

精神的特徴

コミュニケーションを図る際は相手の心に寄り添う意識が大切なため、精神的特徴にも注目する必要があります。精神的特徴には以下のような項目があります。

・ 認知機能低下
・ 不安を生じやすい(身体的機能の低下、経済面)
・ 孤立感、孤独感を感じやすい
・ 喪失体験(家族、友人、社会・家庭における役割)

身体機能の低下による不安や喪失体験は、高齢者ならではの特徴と言えます。これらの精神的特徴は睡眠障害や老人性うつにもつながり、より精神症状を悪化させる要因となります。また、性別や社会的背景によっても不安やその他の感情は異なってきます。

その人の背景理解が信頼につながる

高齢者と円滑な信頼関係を築くには、身体的・精神的な特徴を理解した上で、その人の生活歴や価値観そのものに目を向け、対等な立場で関わることが大切です。

先にも述べた通り、高齢者には今まで歩んできたそれぞれの人生があります。目の前の情報だけで判断せず、敬意を表し、理解を示すことで相手の警戒心を和らげることができます。

また、高齢者は心身の状態や周りの状況の変化に慣れるまでの時間が長く、自身の経験や価値観を大事にしている人も多いです。だからこそ、親身に寄り添い、共感を示すことが重要と言えるのです。

高齢者と円滑なコミュニケーションを図るための基本的なポイント

高齢者と円滑な会話を進める看護師

高齢者と円滑なコミュニケーションを図るために欠かせない基本的な心構えと、安心感を与える接し方の具体的なポイントや工夫の仕方を解説していきます。

実践ではまず、ここで説明する基本的なポイントを取り入れてみましょう。

敬意をもって接する心構えを持つ

高齢者とコミュニケーションを図る上で最も重要なことは、相手に敬意をもって接する姿勢を持つことです。

高齢者は人生の先輩であり、私たちの知りえないさまざまな人生を歩んできています。まずはそのことを理解し、敬意を表していく必要があります。

ときどき丁寧語を使わない、いわゆる赤ちゃん言葉を使用する看護師がいますが、そういった対応は必ず相手に伝わり、信頼を失う原因となります。「親しみを込める」と「軽視する」は大きく異なり、敬意を持っているか否かは、ふとした瞬間に言葉や態度に出てしまうものです。

接し方のポイントとしては、相手を一人の人として尊重し、聞き手寄りの姿勢で接するよう心がけましょう。

実際の声かけや接し方に関する具体的なポイントは以下の5つです。

・ 話しかけるタイミングを見極める
・ 声のトーンや大きさに配慮する
・ 会話のテンポを合わせる
・ 目線の高さを合わせる
・ 非言語コミュニケーションを組み合わせる

話しかけるタイミングを見極める

相手に安心感を与えるには、話しかけるタイミングを見極めることが大切です。

特に高齢者は理解力、適応能力の低下により、突発的な出来事に対応することがとても苦手です。急に話しかける、ノックせずに病室に入るといった行為は相手を驚かせてしまうため、避けましょう。

そういった突発的な出来事があると慌ててしまう方も多く、転倒や予期せぬ事故のリスクにもつながってしまいます。

声のトーンや大きさに配慮する

声のトーンは高すぎず、はっきりと聞き取りやすい声で話すようにしましょう。

高齢者は聴力が低下し、体温計の完了音などの高音域が聞き取りづらくなります。そのため、声の高さや速度には十分な配慮が欠かせません。

声の高い人は低めを意識し、普段よりも少し大きめの声でゆっくりハッキリと話す、聞こえづらい場合は耳元に寄るなど、相手の立場に立った工夫が必要です。その人の状態に合わせた配慮をしましょう。

会話のテンポを合わせる

会話の際は、相手の反応速度に合わせた受け答えが大切になります。

相手がゆっくり話すのであれば、こちらもペースを合わせます。会話の間も合わせると、より話しやすい雰囲気を作ることができます。忙しいと早口になりがちですが、そんなときこそ「会話のテンポ」をしっかり把握するよう意識しましょう。

相手の理解力によっては、単語のみで会話することもときには必要です。その際は、高齢者への敬意を忘れないように心がけます。

目線の高さを合わせる

相手と会話する時は、座る・しゃがむなどして目線を合わせて話すことが非常に大切です。これは高齢者に限らず、一般的なコミュニケーションにおいて共通しています。

見下ろすような視線は威圧感や不安を与えかねませんので、意識的に視線を下げ、安心感をもってもらえるよう配慮しましょう。

非言語コミュニケーションを組み合わせる

会話の中で、表情やうなづき、ジェスチャーなどの非言語的コミュニケーションを取り入れることも、相手に安心感を与える上で効果的です。適度に取り入れてみるとよいでしょう。

また、相談事や不安を打ち明けている場面では、タッチングも有効です。身体に触れる行為により親しみやすさを抱きやすく、さらなる信頼感・安心感につながります。

身だしなみによる第一印象もコミュニケーションの一つです。服装や髪型に気を配り、マスクで表情が隠れやすい点にも配慮しながら会話を進めましょう。

【関連記事】
看護におけるタッチングの効果とは?具体的な実践方法も紹介

高齢者とのコミュニケーションで看護師が意識すべき留意点

高齢者とのコミュニケーションでは、「伝えたつもり」「普通はこうだろう」といった思い込みから、自分本位で会話を進めてしまいがちです。

配慮に欠けた発言や偏見は、誤解やトラブルを招きかねません。常に相手の立場に立ち、個々に合わせた関わり方を意識しましょう。以下では、特に高齢者とのコミュニケーションで看護師が留意すべきポイントを解説します。

高齢者の状況に応じた配慮を忘れない

常に相手の状態に応じた配慮を忘れずにコミュニケーションを取ることがとても重要です。例えば、以下のような場合が考えられます。

・ ベッドに臥床している
・ 座っている(車いす含む)
・ 円背(目線を合わせにくい)
・ 食事中
・ 排泄中
・ 入浴中

身体面や精神面の状況だけでなく、日常生活におけるさまざまな場面にも配慮していく必要があります。相手の機能や理解力に合わせ会話することはもちろんのこと、話すタイミングやシチュエーションによっても反応は異なります。

また、その後の本人への確認やスタッフ間での情報共有もトラブルを防ぐために有効な手段です。

看護師側の焦りや余裕のなさが壁になることも

忙しいときほど言葉遣いや態度が雑になりやすく、焦りが表情や言葉に表れやすくなります。

日々、せわしなさに追われながら業務にあたっていると、自然と早口になり、患者との間にますます心理的な壁ができやすくなります。そのため、態度に出ていないか意識をして会話することが重要です。

特に高齢者の場合、威圧的な態度や強い口調は不安を増強させ、不信感へとつながります。余裕がない時こそ平常心を保ち、視線を合わせ、相づちで安心感を示すなどの基本を忘れないようにしましょう。

否定的な言葉かけが信頼関係を損ねることがある

高齢者の言葉に対し否定的な言葉かけをすることは、信頼関係を大きく損ねます。

特に認知機能が低下している方は同じことを何度も話したり、つじつまの合わない返答が返ってきたりしますが、まずは受け止め、肯定的な言葉に置き換える工夫をしましょう。

世代間のギャップや看護師の価値観・先入観が出やすい場面こそ、相手の立場に立ち、慎重に言葉を選ぶことが重要です。長年の経験と価値観に敬意を表し、その人の社会的背景を考慮した上で会話をしていくことで、より信頼感が増していきます。

以下の記事では、具体的な看護で役立つ具体的なコミュニケーション技法について紹介していますので、こちらも参考にしてみてください。

【関連記事】
もう迷わない!看護に必要なコミュニケーションとは?患者・看護師同士で大切なポイントやスキルアップの方法

コミュニケーションがうまくいかない場面と対応例

高齢者とのコミュニケーションに悩む看護師

高齢者とのコミュニケーションにおいて、会話がうまくいかない場面があります。

高齢者は自身の経験や価値観で物事を判断したり、生活習慣を変化させることが難しい傾向にあるため、認知機能低下への理解も高齢者とコミュニケーションを図る上で重要です。

以下では現場でよくある困りごとと、対処方法に関してシチュエーション別で解説します。実際の場面と照らし合わせてみてください。

話を聞いてくれない・話が脱線する

話を聞いてくれない・脱線するというケースには以下のような内容があります。

・ 「はい、わかりました」と話すが、翌日また同じ行動を取る
・ 症状の有無や程度の話から、毎度自身の昔話や家族の話に飛んでしまう

話が脱線しても受け止めた上で自然に軌道修正し、生活習慣の変化が難しい現実にも配慮することで、安心感と信頼を与えることができます。

また話を聞いてくれない理由の一つとして、単純に聴力低下の影響である可能性もあります。先に解説した「安心感を与えやすい話し方・接し方」を参考に、聞き取りやすい話し方を実施してみてください。

話のつじつまが合わない

話のつじつまが合わないケースには以下のような内容があります。

・ すでに済んでいることをまだやっていないと話す(食事や入浴、排泄など)
・ 逆に済んでいないことを済んだと話す(内服など)
・ 質問ごとに返答が変わる

認知機能低下の影響により、話のつじつまが合わないケースは多々あります。しかし、本人は自身の会話が間違っているとは思っておらず、話している瞬間は、常に真実を話しています。そのため、訂正や指摘は、本人の自尊心を傷つけたり、信じてくれないという不信感につながります。

まずは寄り添った姿勢で傾聴し、共感することを優先させましょう。相手との信頼関係が構築できたら、一緒にチェック表を記入したり、内服カレンダーを使用するなど、視覚的に工夫をしていくことが効果的です。

否定的な反応・拒否が返ってくる

高齢者の中には、こちらの声かけや提案に対して否定的な反応・拒否の姿勢をとることがあります。たとえば、以下のような反応が見られます。

・ 身体に負担のない選択肢を提案しても「もう長くないからいいの」と拒否的
・ 注意したことに対し「長年こうしてきている」と話す
・ 「自分のことは自分でやりますから大丈夫です」とスタッフを追い出す

高齢者には今まで歩んできた人生があり、さまざまな経験をしてきています。そこにはプライドや自尊心が生まれ、人から手伝ってもらうことに抵抗がある方も多くいます。

また、機能低下により自身のできることが減っていく辛さ、今後への不安も強くなります。

看護師は相手の感情や背景をくみ取り、落ち着いた対応を心がけましょう。否定的な言葉の裏にある不安や不満を探る姿勢も必要不可欠です。

会話が続かない・弾まない

会話が続かない・弾まないケースには以下のような内容があります。

・ 話しかけてもこちらを見ず、家族や別の方向を向いている
・ 質問しても返答が返ってこない
・ 「はい、そうです」「大丈夫です」など短文での返答ばかり返ってくる

会話が続かない・弾まないときは、緊張や話題不足が原因であることが考えられます。無理に話そうとせず相手のペースに合わせ、沈黙も一種のコミュニケーションと捉えましょう。

表情や仕草を観察し、変化を拾って声かけをすると、自然な対話の流れが生まれやすくなります。慣れてきたら、相手の関心に沿う話題提供を行うことで、徐々に相手も心を開いてくれます。

心の距離を縮めるポイントとして、タッチングも効果的です。相手の性格や状況に合わせて、さまざまな方法を使い分けていくようにしましょう。

話題を引き出しやすい会話のネタ

会話が続かない・弾まない時に話題を引き出しやすい会話のネタを紹介します。高齢者との会話では以下の内容がお薦めです。

高齢者向けの会話ネタ

・ 天気、気温、季節
・ 好きな食べ物、得意料理
・ 健康習慣
・ ニュース、時事ネタ
・ 趣味
・ 好きな芸能人
・ 若い頃の思い出
・ 住んでいる(いた)地域の歴史や変化
・ 現役時代の仕事
・ 子どもや孫
・ 将来の楽しみ、目標

特に本人が若い頃に体験したことや、場所の話は相手が話しやすいだけでなく、認知機能やうつ症状、孤立感などの改善に役立ちます。

この手法は「回想法」と言われ、医療や介護の現場で広く用いられている方法です。高齢者は最近の出来事である短期記憶よりも、昔の出来事である長期記憶の方が保たれています。

長期記憶を思い出すことで脳が活性化され、認知機能が改善したり、自己肯定感を高める効果が期待できるでしょう。

まとめ

高齢者とのコミュニケーションで看護師が意識すべき留意点や、よくある場面の対応例について解説しました。

高齢者と会話する際は、高齢者の特徴やその人の背景に目を向けることが不可欠であり、決して簡単なことではありません。相手への敬意を忘れず、ペースに合わせた関わりを意識することも大切です。

そういった丁寧な配慮の一つ一つが相手に伝わり、安心感を生み出します。忙しさで余裕がないときこそ、立ち止まってコミュニケーションの在り方を振り返ってみてください。

編集部

訪看オウンドメディア編集部

訪問看護師として働く魅力をお伝えすべく、日々奔走する白ゆりのWebメディア担当。
ワークとライフに役立つ記事を中心に、訪問看護に関するさまざまな情報を発信しています。

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