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看護師が感じる感情労働のつらさとは?ストレスの原因と予防策も紹介

看護師として働く中で「自分の感情をコントロールするのがつらい」と感じることはありませんか。
患者の前では笑顔を保ちながらも、心の中では疲労や不安を抱えている。医師や同僚との関係の中で感情的な負担を感じる。そんな経験をする看護師は少なくありません。
「心がついてこない」「以前のようなやりがいを感じられない」と思う背景には、感情労働という概念が深く関わっています。
本記事では、看護師が抱えやすい感情労働の概要や実際の影響、ストレスを和らげる工夫について解説します。
訪問看護未経験の方もお気軽にどうぞ!
目次
感情労働とは

感情労働とは、アメリカの社会学者アーリー・ホックシールドが1983年に提唱した概念で、「公的に観察可能な表現と身体的表現を作るために行う感情の管理」と定義されています。
もう少し分かりやすく説明すると、仕事の一環として自分の感情をコントロールし、相手(患者やその家族、同僚など)に望ましい感情を抱かせるよう意識的に表現することです。これは肉体労働や頭脳労働と並ぶ、もう一つの重要な労働形態として認識されています。
感情労働は、表情や態度で感情を演じる表層演技、自分の感情そのものを変化させる深層演技の2つの要素に分けられます。
表情などで感情を演じる「表層演技」
表層演技とは、実際に抱いている感情とは異なる表情や態度を表面的につくり出すことです。
例えば、疲れていても患者の前では笑顔を見せる「作り笑顔」や、理不尽なクレームに怒りを表さず穏やかな態度で対応する場面がこれにあたります。
表層演技は短期的には有効な方法ですが、長期間続けると「偽りの自分を演じている」という感覚により自己欺瞞や罪悪感を抱きやすく、結果的にストレスへとつながるおそれがあります。
自分の感情を変える「深層演技」
深層演技は、自分がいまある状況や状態において望ましいとされる感情を心に芽生えさせ、自分の感情そのものを意識的に変化させることです。
看護師を例に挙げると、「この方の力になりたい」「回復を心から願っている」という気持ちを呼び起こし、それを態度や表情で自然に表現する状態を指します。
表層演技に比べて偽りの自分を演じているという感覚は軽減されると言われますが、表層演技は高度な感情コントロールを要求されるだけでなく、本来の感情との境界が曖昧になり、知らないうちに心の疲労が蓄積するリスクがあります。
看護師は感情労働が求められる職種の一つ
看護師は、患者に安心感を与えるために笑顔を見せる、痛みに共感的な態度を示す、家族の不安に寄り添う表情をつくるなど、感情労働を日常的に行っています。
特に看護師は、以下の特徴から医療職の中でも感情労働の比重が大きい職種とされています。
- 患者と接する時間が最も長く、24時間体制で観察とケアを担う
- 患者、家族、医師など多職種との調整役を勤める
さらに円滑なコミュニケーションを図るために高度な感情労働スキルが求められ、精神的な負担が大きくなりやすいのです。
なお、感情労働を必要とする職種は看護師に限らず、客室乗務員・接客業・介護職員・コールセンターのオペレーター・教師など、幅広い分野に存在します。
感情労働が看護師に与えるストレスとその兆候

感情労働は看護師にとって避けられない仕事の一部ですが、適切に管理されないと強いストレスや心身の不調を引き起こすことがあります。
ここでは、看護師が直面しやすいストレスの影響や注意すべき兆候について解説します。
看護師が受けやすい感情面のストレス
看護師の仕事は。肉体労働・頭脳労働・感情労働のすべてが要求される複合的な職業です。特に以下の場面において、感情面のストレスが強くなると考えられます。
- 患者の痛みや不安に共感しながらケアを行う
- 認知症患者の拒否や攻撃的な行動に対応する
- 終末期の患者やその家族の強い感情に向き合う
- 医師から理不尽な指示を受けても、チームとして協調する姿勢を示す
看護師は、限られた時間で多くの業務をこなしながら、こうした状況に日常的に直面します。その中で患者一人一人に向き合い、適切に感情をコントロールすることは非常に困難であり、大きな精神的負担になります。
感情労働による精神的な影響
感情労働によってストレスが蓄積すると、以下のような形で精神的な影響が現れることがあります。
バーンアウト(燃え尽き症候群)
バーンアウトは、これまで熱心に取り組んでいた仕事に対して突然意欲を失い、心身ともに消耗した状態を指します。感情労働を長期間続けることで、自分の感情と職業柄求められる感情の間にギャップが生じ、次第に仕事への情熱を失ってしまうのです。
よくあるバーンアウトの症状
- 朝起きるのがつらい、起き上がれない
- 出勤する意欲が湧かない
- 患者に対して冷たく接してしまう
詳しくは以下の記事も参考にしてください。
【関連記事】
看護師に多いバーンアウト(燃え尽き症候群)の原因、症状は?立ち直りのヒントまで
共感疲労
共感疲労とは、患者の苦しみや痛みに寄り添い続けることで、まるで自分自身も同じ苦痛を味わっているような疲弊を感じる状態です。
看護師は患者の立場になって考え、感情に寄り添うことが求められるため、患者の気持ちに入り込みすぎて「つらい」と感じる方も多いかと思います。
特に、終末期の患者を看取る場面や、回復が難しい患者に長期的に関わる場面では、無力感や深い悲しみを伴いやすくなります。
うつ病などの精神疾患
感情労働による慢性的なストレスは、うつ病や適応障害などの精神疾患のリスクを高めます。
さらに、長期間にわたり感情を抑制し続けることで、仕事以外でも喜びや楽しさを感じにくくなり、自分の本当の気持ちが分からないといった「感情の鈍化」が起こることもあります。
注意すべきストレスの兆候
感情労働によるストレスが蓄積すると、以下のような身体的・精神的な兆候が現れやすくなります。
精神面の変化
- 仕事へのモチベーション低下
- イライラしやすくなる
- 集中力の低下
- 無気力感がある
- 患者に対して冷たい感情を抱く
身体面の変化
- 食欲の減退や過食
- 不眠、中途覚醒といった睡眠障害
- 慢性的な疲労感
- 頭痛、めまい
- 動悸や息切れ
これらの症状が複数重なったり2週間以上続いたりする場合は、感情労働による負荷が限界に近づいている可能性があります。心身のサインを見逃さず、早めに対策を取ることが大切です。
看護師ができる感情労働のストレス予防法とセルフケア
感情労働によるストレスを和らげ心身の健康を保つためには、日常的なセルフケアが欠かせません。ここでは、看護師が実践しやすい工夫を紹介します。
仕事とプライベートを切り替える意識

看護師にとって、仕事での感情を家に持ち帰らないようにするのは簡単ではありませんが、気持ちの面で「切り替えるんだ」と意識することが大切です。
- お気に入りの入浴剤でお風呂にゆっくり浸かる
- 軽い運動やストレッチで身体をほぐす
- 趣味に没頭する
- おいしい食事を楽しむ
など、自分に合った感情を切り替える方法を見つけてみましょう。
プライベートの時間では「看護師としての自分」ではなく、「1人の人間としての自分」を思いやり、役割から解放された時間を意識的につくることがポイントです。
生活習慣を整える
不規則な勤務が多い看護師にとって、基本的な生活習慣を整えることはストレス対策の基盤になります。
- 十分な睡眠をとる
- 食事のバランスを意識する
- 夜勤がある場合も一定の生活リズムを意識する
こうした工夫によって身体的な疲労が軽減され、感情をコントロールしやすい状態を保ちやすくなります。すべてを一気に変えようとはせず、できるところから取り組んでみましょう。
【関連記事】
夜勤をしながら生活リズムを整えるコツ!原因や心身への影響も解説
呼吸法やマインドフルネスを日常に取り入れる
日常の中で取り入れやすいのが呼吸法やマインドフルネスです。特に腹式呼吸は自律神経を整え、リラックス効果を得やすい方法として、厚生労働省の「こころの耳5分研修シリーズ」でも紹介されています。
- 腹式呼吸のやり方
- お腹に手を当て、息をすべて吐く
- 鼻からゆっくりとお腹を膨らませるように息を吸う(4秒)
- 一旦息を止め、膨らんだお腹をへこませながらゆっくり息を吐く(8秒)
- 3~5分繰り返す
腹式呼吸は、仕事の合間や休憩時間に数回行うだけでも緊張や不安を和らげることができます。
参考:厚生労働省「こころの耳5分研修シリーズ」
安心して話せる環境をつくる
感情労働では、自分の本音や感情を表出できる場がないことが大きな負担になります。安心して気持ちを吐露できる環境を持つことで、自分の気持ちを整理しやすくなります。
友人、家族、同僚、趣味の仲間など、日頃から気軽にコミュニケーションが取れる相手を増やしておき、心身の不調が続く場合には専門家に相談することも重要です。
一人で抱え込まず、周囲のサポートを積極的に活用しましょう。
訪問看護における感情労働、大切なのはチームで支えること
訪問看護は利用者とじっくり向き合えるやりがいの大きい仕事ですが、生活に直結する悩みや不安に寄り添う機会も多く、病院以上に感情労働が伴う場面があります。それは、看護師にとって充実感を得られる一方で、心の疲労につながることもあります。
白ゆりでは日々の悩みを一人で抱え込まないよう、訪問先での疑問や気づきを共有する「朝礼・夕礼」の時間を設けています。
感情のコントロールが必要なときに、自分の想いを受け取れる人がいなかったら辛いものです。チーム全体で話せる雰囲気を大切にすることで、精神的な負担を軽減しながら、質の高いケアを届けられる環境づくりを心がけています。
訪問看護リハビリステーション白ゆりでは、一緒に地域医療を支える仲間を募集中です。「支え合える職場で訪問看護を始めてみたい」と感じた方は、ぜひ採用情報もご覧ください。
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まとめ
感情をコントロールすることは、患者や家族、同僚と良好な関係を築くだけでなく、質の高い看護ケアを提供するためにも欠かせません。しかし、過度なストレスはバーンアウトなどの精神的な不調につながるおそれがあります。
感情労働は看護師にとって避けられない職務の一部ですが、正しい理解とセルフケアによって負担を軽減することができます。日常的に自分にあった方法で心の健康を整え、ときには呼吸法やマインドフルネスを取り入れることが有効です。
本記事が、看護師としての充実したキャリアを築きつつ、自分自身の心と身体を健康を守るきっかけになれば幸いです。
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編集部
訪看オウンドメディア編集部
訪問看護師として働く魅力をお伝えすべく、日々奔走する白ゆりのWebメディア担当。
ワークとライフに役立つ記事を中心に、訪問看護に関するさまざまな情報を発信しています。